第3回 現代医学と鍼灸 ― 科学的根拠とエビデンス
はじめに
長い歴史を歩んできた鍼灸は、古代の経験的医療から出発し、
いまでは世界中で科学的な研究と臨床検証が進められる医療となりました。
東洋医学の「気」や「経絡」といった概念は、
現代医学でいう自律神経や血流、ホルモン分泌の働きに
深く関わっていることが少しずつ明らかになってきています。
鍼灸の働き ― 身体が本来持つ力を引き出す
鍼灸の目的は、単に痛みを取ることではなく、
身体が自分で回復しようとする力(自然治癒力)を引き出すことにあります。
近年の研究では、鍼刺激によって次のような生理反応が起こることが報告されています。
- 神経系の調整により、エンドルフィン(体内の鎮痛物質)が分泌される
- 血流が促進し、筋肉の緊張がやわらぐ
- 自律神経のバランスが整い、内臓の働きや睡眠リズムが改善する
- 免疫やホルモン系にも穏やかな影響を与えることがある
こうした反応が重なり合うことで、
肩こりや腰痛だけでなく、疲労・冷え・不眠・ストレスなど
全身のコンディション改善につながると考えられています。
世界が注目する鍼灸の研究
世界保健機関(WHO)は、鍼灸を「伝統医療の一つ」として正式に認め、
一定の効果が期待できる症状を公表しています。
代表的なものには、
- 頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛
- 関節痛、神経痛
- 消化器の不調(便秘・胃痛など)
- 月経痛、更年期の症状
- 不眠、ストレス関連の症状
などが含まれています。
また、アメリカやヨーロッパでも、医療機関内で補完代替医療として
鍼灸が導入されるケースが増えています。
日本における鍼灸の科学的アプローチ
日本でも大学や研究機関で、
鍼灸がどのように身体に作用するかの研究が進められています。
たとえば、脳科学の分野では、鍼刺激によって
痛みの信号が脳内でどう変化するかがMRIなどで観察されています。
また、自律神経の安定や血流改善など、
目に見えるデータとして効果が測定できる段階に入っています。
こうした研究は、東洋医学と西洋医学をつなぐ橋渡しとして
今後ますます期待されています。
こころとからだを整える「調整医療」
現代医学は「悪い部分を治す」ことが得意ですが、
鍼灸は「全体を整える」ことが得意な医療です。
たとえば、
- 検査では異常がないけれど、体が重い
- 夜眠れない、食欲がない、イライラする
そんな「未病(みびょう)」の段階でこそ、
鍼灸がやさしく寄り添うことができます。
身体だけでなく、心にも働きかけ、
人が本来持つ自然のリズムを取り戻していく。
それが、現代における鍼灸の大きな役割です。
まとめ
古代から続く鍼灸の智慧は、
いまや科学的にもその価値が見直されつつあります。
**「気」や「経絡」**という考え方は、
現代の言葉でいえば「神経・血流・ホルモン・免疫」の
複雑なネットワークを整えるものと言えるでしょう。
これからも鍼灸は、
過去と未来、東洋と西洋をつなぐ“橋”として、
人の健康を支えていく存在であり続けます。

