第2回 日本に伝わった鍼灸 ― 奈良時代から江戸へ
はじめに
前回ご紹介したように、鍼灸は古代中国で生まれ、
「気」と「経絡」の理論を中心に発展してきました。
その鍼灸の知恵が日本に伝わったのは、今からおよそ1,400年前。
仏教や漢方医学とともに、日本独自の文化の中で大きく形を変えていきました。
鍼灸の伝来 ― 奈良時代のはじまり
鍼灸が日本に伝わったのは、奈良時代(8世紀ごろ)。
遣唐使たちが中国(唐)から医学・天文学・哲学などを学び持ち帰ったことで、
「鍼経」「黄帝内経」といった医学書も日本に伝わりました。
当時は貴族や僧侶の間で「体調を整える医術」として扱われ、
国家の医療制度(典薬寮)にも鍼灸が正式に取り入れられました。
つまりこの時期、**鍼灸はすでに“公的な医療”**として認められていたのです。
鍼灸が庶民へ ― 室町・戦国時代
時代が進むにつれ、鍼灸は宮廷や寺院から民間へと広がります。
戦乱の時代、人々は戦傷や病を癒す手段を求め、
鍼や灸が「自分の身体を守る医療」として重宝されるようになりました。
このころから、日本各地に「施灸の習慣」が根づき、
もぐさ作りが盛んな地域も生まれます。
特に新潟県の「伊吹もぐさ」などは、今でも高品質なもぐさとして知られています。
江戸時代 ― 日本独自の鍼灸文化の確立
江戸時代になると、鍼灸はさらに大きく発展します。
多くの医師や鍼灸師が登場し、
中国の医学をもとに日本人の体質に合った鍼灸が研究されました。
代表的なのが、盲目の鍼師「杉山和一(すぎやまわいち)」。
彼は「管鍼法(かんしんほう)」という、
鍼を筒に通して打つ日本独自の安全な技法を考案しました。
この発明により、誰でも安心して鍼治療を受けられるようになり、
江戸の町人たちにも鍼灸が広まりました。
また、江戸時代には「養生」という考えが重視され、
「未病を治す(病気になる前に整える)」という東洋医学の思想が
庶民の生活の中に浸透していきました。
鍼灸と日本人の暮らし
この頃の日本では、「お灸は家庭の常備薬」とも言われ、
一家にひとつ「もぐさ箱」があるほど。
肩こり・腰痛・風邪の予防に灸を据えることが日常的でした。
鍼灸は単なる治療ではなく、
**人々の暮らしに寄り添う“生活の知恵”**として根づいていったのです。
まとめ
中国から伝わった鍼灸は、
奈良時代に「国家の医療」として導入され、
やがて江戸時代に日本人の生活文化の一部として定着しました。
現代に続く日本の鍼灸は、
この長い歴史の中で育まれた「日本人の身体と心に合った医療」と言えるでしょう。
次回は、科学の時代に入り、鍼灸がどのように研究・発展していったのかをたどります。
「第3回:現代医学と鍼灸 ― 科学的根拠とエビデンス」 に続きます。

